現代文化遺跡研究会

 本年(2005年)話題になった『電波男』という本がありましたが、その帯の煽り文句には「もはや現実の女に用はない、俺たちは二次元に旅立った」とか 何とか書いてあったように思います。現実の世界に対し、架空の世界を「二次元」と言うことのようですが、この言い回しはオタク業界では良く見られるようで すね。なかなか面白い表現と思います。現実の世界を抽象化したメディアに強い関心を抱く、と言い換えれば、何もアキハバラ界隈に限定されない、近代社会全 般にも相通じるものを感じますね。

 と、ここで筆者は突如、実は本田透氏よりもスゴイ「二次元」の権威がいるんじゃないか? ということに思い至りました。
 その名は堀淳一氏。といっても、その名前を ご存知の方はそれほど多くは無いかもしれません。
 堀氏は、地図マニアなのです。地図こそ、現実世界そのものを二次元に押し込めて所有してしまおうという企みそのもの。ある国が自国を測量して地図を作る というのは、国家権力が国土の隅々まで浸透してゆく近代化の過程。なーんてことを考えたんですが、流石にこの意見は飛躍が過ぎていまいち受けが良くありま せんでした。
 しかし、それはともかくとしても、堀氏は、様々なオタクの中でも伝統と格式を誇る? 鉄道マニアの世界に重大な足跡を残しておられるのです。それは「廃 線跡歩き」です。廃止になった鉄道の跡地を訪れ、往時を偲ぶというものですが、これは事実上堀氏が始めたものといわれています。鉄道趣味の歴史を叙述した 論文の一節を引用しておきましょう。
 乗りつぶしほどではないが、多くの共鳴者を得たものに廃線跡あるきがある。これを鉄道趣味のジャンルに引き込んだのは堀淳一氏であ る。堀氏はもともと物 理学者であるが、地図に対する造詣が深く、1972年にその著作『地図のたのしみ』によって日本エッセイストクラブ賞を受賞した。堀氏はそれ以前から過去 の地形図を資料として鉄道線路のルート変更についての報告を『鉄道ファン』に寄稿しており、同じような論考はすでに何人かの鉄道ファンが試みていた。堀氏 の行った「廃線跡のたのしみ」は地形図と現場写真を豊富に組み合わせ、軽妙なエッセイで過去の鉄道の盛時とレールの失われた現代のさびしげな景観を対比し て、哀愁のムードをたっぷりと読者に味わわせてくれる。また、これは後述する産業考古学的な研究にも通じる分野である。

青木栄一「鉄道趣味のあゆみとあり方をめぐって」
『鉄道ジャーナル』1991年10月(通巻300)号所収

 堀氏は現在もなお旺盛に執筆活動を続けておられ、昨年も『歴史廃墟を歩く旅と地図―水路・古道・産業遺跡・廃線路』を講談社プラスアルファ新書から出さ れています。
 廃線跡歩きと似たものに「廃墟探訪」があり、見応えのある写真集がいくつも出ていますが、廃線跡歩きの特徴として、地図という二次元のメディア情報の方 がもともと先にあった、そこから始まったのだということは、結構大切なのではないかと思います。
 そしてまた、上掲引用論文にもありますが、最近では廃線跡歩きのようなことが産業考古学という分野としての対象である「近代遺跡」として、学術的な研究 の一環にも位置づけられるようになって来ました。大変結構なことであります。遺跡調査は考古学の専門分野ではありません。文献史料と遺跡調査を付き合わせ ることで、大きな成果を得ることが出来るのです。

 さて、翻って今のメイドさん方面の世相を省みますに。
 メイドコスプレ喫茶は激増したものの、風俗紛いの店も増加して当局の指導を受ける始末。メイドコスプレ喫茶がオタク以外の層にも知られるようになり、 「萌え」「ツンデレ」といったジャーゴンがマスコミを賑わせます。オタク文化は日本の花形産業扱いされる一方で、「ゲーム脳」だ「フィギュア萌え族 (仮)」だという言説が横行します。混迷の時代です。このような時こそ歴史に学び、来し方を見据え、行く末を見定める一助とすべきです。
 そして、近代史研究においても「遺跡」の重要性がクローズアップされる現在の研究潮流に顧み、オタク文化についてもその遺跡を調査研究する必要を感じ、 この度MaIDERiAでは「現 代文化遺跡研究会(略称:現遺研=げんいけん)」を立ち上げることと致しました。発起人である墨東公安委員会(注: 個人のHNです)は、史跡保存を目的とする、さるNPO法人に現在名を連ねており、また以前某お役所の下請けで近代遺跡の調査を行った経験もあります(ホ ントだよ)。浅学非才の身ではありますが、近代史における遺跡の重要性について幾許かの認識は有しているつもりであります。
 現代文化とは銘打ちつつも、MaIDERiAはメイドさんを中心とした制服系サークルですので、当面はそれにまつわる遺跡を中心に調査し、メイド・制服 文化への思索を深めてゆきたいと考えております。活動領域を広げるためにも、当会の理念にご賛同くださる方の参加を心待ちにしております。

2005.10.31. 墨東公安委員会

 つまりまあなんだ、↑のロゴを作りたかっただけで、以上の内容は全部後付です(笑)
 ロゴの元ネタは言うまでもありませんが、実際の作成作業は渡辺プロデューサーの手になります。ありがとうございます。
 のんびり街歩きをして、思いつくまま適当なことを書く、他コンテンツとやることは基本的に同じです。

廃店跡を歩くT
秋葉原メイド跡巡り
〜荷風は何を怒ったか・読み方「アキハバラ」の誕生一仮説〜

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