墨耽キ譚
〜森薫『エマ』『シャーリー』を巡る対談〜


第6回
『エマ』第5巻について

(2005.4.5.墨公委邸にて)
墨:ではいよいよ、第2回の収録に及ぶわけで、ご協力ありがとうございます。
耽:今日は4月5日ですね。
墨:ええ、アニメ『エマ』の初回放送は、tvkでは既に終わりましたが、私は録画しているものの敢えてまだ見ておりません。
耽:私は録画すらせずまだ見ておりません。(笑)
墨:で、先月に出ました森薫『エマ』5巻と、小説『エマ』1巻について、じみじみと語りだそうかという所です。
耽:じゃあまあ単行本から行きましょうか。
墨:そうですね、森先生のほうが優先で。
耽:まず表紙が・・・。
墨:表紙はまあいいんじゃないんですか、裏見返しにハンス君もちゃんと登場してますしねえ。なかなか賑やかそうで。
耽:実は裏表紙の台所のおばさん好きなんだけど、
墨:ドイツおばさんですね。
耽:でも、ちょっと顔がぼけてるんだよ。惜しいねえ。
墨:まあサイズから言ったらしょうがない。
耽:もうちょっと大きく描いて欲しかった。
墨:表紙は、相変わらずいいですし、アンケート葉書のマーサさんのお顔がなかなか、可愛いなあというのはまあ置いといて。
耽:(笑)
墨:まあ、いちいち1ページずつやるのも煩瑣ですから、全体にパパッと思いついたところをやっていきたいと思います。
耽:まずは過去編がね。
墨:過去編で引っ張るかと懸念したんですが、2話で終わって、拍子抜けと言うか、まあそれは良かったと言うか。
耽:うん、でもねえ、親父さんの若い頃を描いてみると、あの、お姉様にそっくりなのがどうかと思うんですが。
墨:ああ、モニカお姉様ですか、そうですね。
耽:そう、描き分けができていないので、一瞬モニカお姉様が本当に男装をしているのかと思ってしまった(笑)。
墨:(笑)。絵の色が薄いというか、枠線を細くして回想シーンを表している、
耽:うん、そういうところはね。
墨:とてもいいですよね。ただ、確かにおっしゃったように、キャラクターの個性が、やや薄まってしまったような感があるのは否めない。
耽:でもこのオーレリアが踊りながらこける辺りとか、「私嘘は申しません」と明後日の方向を・・・。このセリフどっかで聞いた・・・あ、『引越のサカイ』だ(笑)。
墨:(笑)「♪それではみなさん、さ〜よう〜な〜ら〜」
  
耽:で、なんと、息子カップルで描かなかったと思ったら、親父夫婦でも、恋愛過程を全く描かずにいきなり求婚ですよ。
墨:はーん、でも一応一話使ってるんじゃないんですか、出会いのシーンで。
耽:でもそれだったらエマとウィリアムも出会いのシーンで・・・。
墨:ああそうか、確かに何に惹かれたかがいまいち説得力が乏しいと言うのは・・・まあ弾かれ者同士がくっつくような感じだから、こっち(父夫婦)の方が説得性はあるんですかねえ。
耽:いやでもどうかなあ、だって25ページで、住んでる場所すら知らないのに求婚して、しかもたった3週間しか早いと思わないわけでしょう?
墨:まあ、オーレリアさんのぶっ飛び具合ということでいいんじゃないでしょうか。
耽:うーん、かもねえ・・・。
墨:ところでジョーンズさんってどこに住んでんの?
耽:いや、冒頭でロンドンの富豪って言ってるから。
墨:ああ、ロンドンに住んでんのか。
耽:・・・しかしオーレリアの親も凄いよね、「お前の相手は園丁か狩猟番だと思っていたよ」(笑)。一応だって、地方の上流階級ではあるんでしょう?
墨:医者とか書いてましたよね。
耽:ああそうか。・・・あと33ページのオーレリアの科白、「マーサがすねちゃって出てこないの」おおマーサ!(笑)
墨:(笑)あなたマーサにもかなり入れ込んでないですか?
耽:いやいやいやいや(笑)。
墨:ただ、結局、神経衰弱になって療養に行くんですけど、その行先はメルダースさん家のそばですよねえ。でも出身がウィルトシャー(注1)だから、そっちの方があったかそうで良い気がするんですけど。
耽:でもほら、そのまま地元に帰ると、出戻りだと口さがなく噂されるから、わざとこう、方違えをしたのではないかと。
墨:方違えですか(笑)、なるほど。
耽:結構、上流階級ですり減っていくわけだよねえ。この辺りのさりげない描写も・・・。そう、この辺りから、実はこの親父が、人間味のある奴だったということが段々分かってきて。
墨:分かってきてしまうんだけど、そのことは・・・
耽:だから、今まで親父はなんというか、ウィリアムの前に立ちはだかる壁としてバーンと存在していて、逆にオーレリアの方がその辺なんか破天荒に生きていくという風にしていたのがねえ。まあこういう過去があったからとなると、確かに流れとしては、ある意味理屈は付くんだけど。
墨:そうですね。
耽:結局親父は見かけよりも柔らかかったし、オーレリアの方も、次の話になっちゃうけど、エマに対して「私は難しいと思うの」と言うように実は常識派だったというのは、流れ的には分からなくはないけれども、でもやっぱり今までのキャラの作り方とはちょっと違ってるなあと。今までの積み重ねが活きていない・・・なんかこう、ここに限らず、この巻に入って・・・まあ前の巻の辺りからだけど、割となんか、キャラクターが奔放に動かなくなってきてるなあという感じがする。
墨:話をまとめるためにそうせざるを得ないということでしょうかねえ。
耽:うん、後でも言うと思うけど、ストーリーがキャラを侵し始めているというか。シャーリーの頃から確かにやりたい事の方がキャラがより先にあるような感じではあったけど、でも前はそのネタとキャラクターの結び付け方が天下一品だったから、それはそれで凄くキャラが立ってたんだけどねえ。ここに来て、全体をまとめるためにストーリー的なものを持ち込もうとして、キャラクターがそのストーリーを担いきれなくなって、歪んできてるって言えばいいのかな?
墨:うーん・・・
  
墨:で、話の続きに、第32話に戻りますが、この回はネタというか、描き方が細部にわたっている点では、なかなか。
耽:この57、8ページで、呼び鈴を眼鏡と間違って耳に掛けようとするとかねえ、芸が細かい。
墨:こういうところは良いんですよね。
耽:あと、森薫先生お気に入りのパン立てがちゃんと、63ページに描いてありますし。でも74、5ページ、ここはさっきも言った通り、随分ウィリアムの両親が歩み寄ってしまっているというか。コントラストとして、対照的な父と母の、その真ん中にウィリアムを置いて、面白い三角関係を描くのかと思ったら、あっさりと二極に収斂してしまっていて、じゃあ今まであんだけやらせてきたのは何だったんだろうっていう感じがするんだよなあ。
墨:でまあ、今までのロンドン編を締め括るために、76ページ以降の変身シーンがあるわけでして。メイドスキーとしては、この76ページ以降5ページの、エマの変身シーンこそが、そう、話の区切りとしてもなかなか。
耽:うーん・・・
墨:ここの変身シーンの見せ場を1コマ1コマ舐めるように堪能すればそれはそれで、良いような気もするんですが。
耽:まあ、78ページの2コマ目なんか、服を手繰り寄せてサッと風が起きてますからね。
墨:76ページの下のコマのあたりなんかこう、何と言うんですか、ギリシャ彫刻を思わせる感じもしますね。
耽:ええっ?(笑)そこまで・・・確かにこういう構図はあったか・・・。
墨:さらに、衣服のしわなんかの凝り具合とか。
耽:いやそれはだって森先生の真骨頂ですから。
墨:結局またいつもと同じような結論になるんだけど、いやあヴィクトリア朝の画家みたいですねえ(笑)
耽:(笑)
墨:っていう洒落にならないオチになるんですけどね。まあこの本は600円くらいですけど、ここら辺の5ページに1ページ100円づつ払ってると思えば、取りあえず納得、という。
耽:僕はメイドスキーではないので・・・いやだって、大体そもそもこの巻にはエレノアが3ページしか出てこない。どういうこっちゃ、全く・・・。1ページ200円づつかゴラァ、っていう感じなんですが。
墨:まあまあまあまあ(笑)。確かにそうですね、話をまとめに入っているのに、今まで出てきたキャラクターを、必ずしもちゃんと・・・重要なエレたんを上手く回収できていないような、いかにもとってつけた感じで出てきて・・・
耽:そう、打ち捨てられてるんだよね、ウィリアムからだけじゃなくて作者にすら。
墨:でそのくせ最後に、エレたんのお父さんが、しかもかなり唐突な感じで出てきたりとかして。でお父さんはまあいいんですけど、その附属で付いてる男女の方とかですね・・・。
耽:そうそうそうそう。
  
耽:83ページから、33話か、エマがメルダース家に戻って、少し明るくなったということを描きたいのは分かるんだけど、なんでそこで火事が起こるのか、全く意味が分からん。
墨:そうですね、小ネタにしては凝り過ぎているし・・・。
耽:描きたかったのはこの100ページからの、いやむしろ102ページからのやり取りなんだよね。
墨:そうですね、これは良いんですけど、石炭逸話が生きてこない感じがするのは残念ですね。
耽:ここを描くんだったらねえ、こんなネタ使わなくても、もっともっと色々な描き様があったはずで・・・
墨:で、34話で、往復書簡なんですが。
耽:うーん、あれですね、心情を分かりやすく伝えるために、手紙を使ってごまかしてしまうというね。
墨:ああ、そうだね、それは残念ですね。焦って感情を詰め込んでいる。
耽:まあ我々は、この2人は恋愛譚ではない、恋愛シーンが全くないと散々言って来た訳で、その遅れを一気に取り戻すかのように、感情が募らされていることは確かだけど・・・
墨:だけど、言葉に頼って説明しすぎてるという点では、今までの良さの方向とはちょっと違ってるような気がして残念ではありますね。
耽:そうそう。
墨:それから「地図を開いて想像しているうちに地理にばかり詳しくなってしまいました」とありますが、あんたの地図何年物だ、というツッコミはまた別のところでやりますが(注2)・・・確かにねえ、言葉に頼りすぎてしまっているのは、残念ですね。
耽:そして、この120ページ、なぜここでこう、このタイミングでエレノアが・・・まあ愛しい人(My Love)がエレノアじゃないということを、読者に思い出させるためなのかもしれないけど・・・
墨:確かに私も忘れてました、そんなのがいたって言うことを(笑)。
耽:うーんでも、入れ方が変なんだよね。
墨:まあ、で、おそらくこの巻で普通の人にとっては山場であろう、ハワースへの来訪の回になるわけですが。
耽:その前にでも、この34話もなんか変な終わり方なんだよね。
墨:それはそうだな。
耽:ひたすら文通して、髪を送りあって終わり?
墨:確かに、ここら辺から話をもうまとめなきゃいけないっていう風な意識が強くなり過ぎてきたのかなあ。
耽:うーん・・・テンプレに無理に嵌めようとして、変になっちゃってるような感じが・・・なんか、まとめようとしてる割に、構成が見えてない感じで、目盲滅法にただ終らせようとだけしているような感じがするんだよね。Sequelもちょっと訳わかんないし。これは何? Jounse(注3)っていう苗字を自分はいまだに書いているということに、疎ましさを感じたのかねえ。
墨:いや、彼の名前を書いてから、彼に書くことが結局浮かばなかったんじゃないんですかねえ。
耽:いやだって、宛名書きの途中で止めてるんですよ。Mr. William JounseのJouまで書いたところで手が止まって、グシャッと丸めて不貞寝しちゃうという。ちょっと良く分かんないんだよ。
  
墨:で、次が、ハワースですねえ。
耽:向かいましたか・・・で、140ページから気付いたエマが走り出すのに、141ページで、例によって、翻るスカートとかリボンとかだけを描くって所は上手いんだけど。でもその前の140ページの最後のコマ、この顔はいらないでしょう。こんなに分かりやすくしなくても。
墨:次の見開き(144、5ページ)は、いいんじゃないんでしょうか。
耽:・・・でまあ、アデーレと、なんだっけ、このモンローちゃんが(笑)割と冷静に見てるし、こうドロテアはね、「ファンタスティック」って言ってから、ちゃんと旦那を左手で抱き寄せて、キスをした上で「ドラマね」って続ける・・・やっぱり、脇役は生きてるよねえ・・・
墨:うーん。
耽:でお茶を持ってくのがアデーレと・・・で、さしものアデーレも、やっぱり耳を欹てざるを得ないというところもなかなか。表情を全く変えないけれども、それを忍ばせてる辺りは上手いよね。
墨:そうそう。
耽:あと、154ページの、こういう歓待は普通なの? 旦那同士がソファに座ってるのに、女房が旦那のソファの背もたれに寄っかかって立ってるっていう。
墨:良いんですよ、この家ってかなりトンでるからもう(笑)。ドイツ人の考えることってもう私分かりません。
耽:(笑)絵的には確かに凄く嵌まってるんだけど・・・
墨:もういいんですよ、絵的に嵌まってれば、良いんです。
耽:そうだね、「英國」ですからね。
墨:カギカッコ、英國、カギカッコ閉じ、ね。で、156ページから話が飛んで、スープ屋の旦那、じゃなかった、キャンベル子爵が登場すると。ところが、ジョーンズ氏と子爵の話が始まるのかと思うと、36話が・・・。
耽:いや、ここは本当に、読んでいてハァ? と。
墨:ここはねえ。ただどうなんですか、オペラに造詣のある方は面白いんですか? 僕はまったくないんで。
耽:いや別に、姉ちゃんの名前を皮肉るくらいでしょ? ・・・でもねえ、わざとなんだろうけどこの姉ちゃんも変な目だし、突然こんな墨の中に描いて・・・まあ165ページのつま先の媚態とか、悪くは無いけど・・・
墨:キャンベル子爵を出したって言うことは、話を畳むための布石なんでしょうけど、この辺のキャラクターの絡みは、妙に手を広げてて・・・まあ次の巻を見れば、また進展があるのかもしれないけど。
耽:この女ネタ、これ引っ張るの?
墨:いや分かんないけど。多分ビームとしては、まだ『エマ』は終わって欲しくないでしょ。
耽:でもなんかあとがきで物語も佳境とか言ってるからなあ。「詰めに入ってきた感じ」とか。・・・本編に戻って、奥様同士はまあ割とうまく行ってるのかな?
墨:いやそれは、うまく行ってるんじゃなくても、どうでもいいんでしょ。
耽:まあ何とかするんですけど。何せ旦那同士がね。
墨:で、そして178ページで、手袋放擲シーンがねえ。
耽:性格を上手く出せているなあとは思わなくも無いけど、直截に過ぎるというか。
墨:でも、キャンベル子爵は自分の娘をジョーンズ家と結婚させたくないんだったら、ウィリアムはエマと結婚できていいじゃん、話としては。
耽:いや結婚させたいんでしょ。だって前に出てきたじゃん、家がかなり左前で火の車で・・・
墨:だったらなんで手袋捨てたりするんだろうなあ・・・
耽:不本意は不本意なんでしょ。でも娘は娘ですよ、所詮道具ですからこの時代の娘なんて。
墨:所詮娘だから、高く売り飛ばそう、っていう感じなんですかね。
耽:そう・・・でねえ、この間男くんネタ・・・「私はコケにされるのだけは我慢できん」とか「身の程もわきまえずすぐ勘違いしてつけ上がる」とか、描きたいのは分かるけど取って付けすぎだよなあ。
墨:そうですねえ。
耽:まあ36話の終わりで、ひたすら燃え盛る石炭を掻き回すウィリアムの親父さんとかは、なかなか内心を想像するとわくわくしてしまうんですが。
墨:その、内心を想像されるとわくわくするというのが森先生の作品のいい所なんですが、そういう点ではさっきの往復書簡とかはちょっとこう・・・
耽:もう全然ね、なってないね。この巻は本当にね、見所ないしね。
墨:ええっ、変身シーンがあるじゃん。
耽:いや私は別にメイドスキーじゃないから(笑)
  
墨:さあ、ではこの、本巻で一番楽しいあとがきに。
耽:そう、だってSequelがこれだけクソつまらないから、この「ちゃんちゃらマンガ」こそが。
墨:いや(笑)これ、凄く面白い。(笑)
耽:「金髪紳士がお好き」ですか。またまたこんなとこにモンローがいるし。
墨:うん(笑)。
耽:でも、イギリス行っちゃってたんだ、知らなかった。
墨:行っちゃってたんですねえ。
耽:行っちゃったから駄目になったっていうのは、やっぱ言い過ぎですかねえ。
墨:まあそれはちょっと判断できないですけど。でもこのあとがきマンガは凄く面白いから良いんじゃないでしょうか。
耽:そう? まあ「楽しく描いている」の所で時計が「じかーん じかーん」と揺れるとかね。あと、私は前巻で墨東さんがコリンを「この顔すっごくかわいい」って言ってびっくりしたけど、他の男性読者もやっぱ同じだったんだなあという。
墨:まあ、あそこはみんなそう思うと思うけどなあ。
耽:いや、いま世の中ショタ化が進んでますからね、エロゲに頻々とショタキャラが搭載されるようになっているし、どうなっているんだこの世の中は・・・とやおい読みとして苦言を呈しておく、と、種村センセイ(注4)を気取っておいて。
墨:(笑)しかし、8歳で『エマ』読んでたら、どんな大人になるんだろうっていうのが心配なんですけど。そして何よりその次の(笑)・・・面白い(笑)。
耽:ああ、こういうの? よくあるよ、新井理恵先生(注5)とか大好きですよ。
墨:新井理恵先生とか、そうですね、少女漫画の人たちって好きそうだけど、森先生がやると、また面白いじゃないですか。
耽:まあね、絵は少女絵にしておきながら「電磁波の影響」とか「ガチンコ」とか言ってるっていう。
墨:そうそう、その組み合わせがほんと面白い。
耽:でオチが「替われ!!!」(笑)。あと最後の「ゴンゴンゴンゴン」は実はかなり好きなんだけど(笑)。
墨:(笑)
耽:下にこう、エレノアがきょとんとしてるのがまたポイントで。
墨:そうそう、最後いきなり猫になるし。
耽:・・・でまあ次は例のですなあ。
墨:「メルダースの屋敷にいま暗雲が迫る」って、まあイギリスの空だから暗雲ぐらい迫るでしょう、ていう感じですが。
耽:でもなんで「メルダースの屋敷」なんだろう。エマがいなくなることがあの家にとってそんなに「暗雲」なのか? いや、エマに暗雲が迫る、ウィリアムに暗雲が迫るのは分かるけど、なんでメルダースの屋敷?
墨:いや、有能なメイドがいないと、お屋敷が回りませんから。
耽:いやいや。そんなことはないでしょう。
墨:で、この表紙を使っている奥付は、僕は結構好きなんですけど。
耽:うん、例によって。ただ元絵でエマを大きく描きすぎて、人がいないところがあんまり無いから、奥付ページではドアップになってしまっているのはちょっと惜しいと思うけどねえ。
墨:であとは挟み込みの。
耽:アンケート葉書、マーサが若くて、いいねえ。
墨:結局、我々はまたサブキャラ萌えになってますね。
耽:で帯はアニメ開始と。
墨:エレノアの中の人がマドラックスだとなんか混乱しそうだなあ。(注6)
耽:えっ、そうなの(笑)。あららら。
  
墨:じゃあまとめますか。
耽:いやあ、初読のときあまりにつまらなくあっさり読み終わってしまって、慌てて読み返したらまあ、そこここに過去の栄光は残ってるんだけど、どうもね・・・。
墨:どうもこう、さっきも言ったんですが、話をまとめようとするために、どうしても今までの財産を必ずしも、今までの蓄積を必ずしも活かしきれてないというか。蓄積といっても伏線とかいったストーリー的な意味とは我々は全然違って見てしまっているわけだけれども。
耽:この間言わなかったんだけど、4巻でもモニカお姉様をあれだけ派手に出しておきながら、婚約披露パーティーで全く出てきてないとか。あれだけショックを受けていたのに・・・
墨:いやあ多分、妹がいなくなることにショックを受けて、オーストラリアかどっかに行ってるんじゃないんですか?(笑)
耽:(笑)ショックで・・・そうなのか? でもさ、実はモニカお姉様、さっきのあとがきの「ゴンゴンゴンゴン」のところにはいるんだよね。ここに出すってことは作者も忘れたわけではないんでしょ? なんで本編で使わないんだろう。・・・こういうとっ散らかりぶりがねえ。ましてや特にこの巻の最終話なんか、全く訳がわからん。
墨:ですがただまあ、次の巻でどうするかですよ。上手く料理すればまたちゃんと面白くいくと思いますけど。
耽:確か単行本刊行時点で4ヶ月くらい連載が進んでるんだよね? するとこのあとに4話はあるわけで・・・やっぱ7巻くらいまでは引っ張るんだろうなあ。
墨:まあ『コミックビーム』にとって看板でしょうからね。取りあえずこの巻は、これからどのようにまとまっていくか、というような所なんで、個別に評価するにはちょっと切りが悪いところなのかな。
耽:うん、評価のやりようが無いけど・・・でも展開部にしても、もうちょっと上手くまとめないとこりゃ酷いだろう。
墨:でもまあ、最終的なまとまり次第では変わってきますから。
耽:そうかなあ、でも、連載読んでてこれだときついと思うよ。
墨:連載はいいんですよ、テンポ悪くても。本誌よりは単行本の方が遥かに売れてるらしいから。だからとりあえず、次に期待ということで。
耽:そうそうそう、一つ思ったのが、全部変なところで話が終わってるでしょう。この辺がもうなんか・・・
墨:引っ張り癖みたいになってる。
耽:うんそう、無理になんか、次の話のネタをちょっとだけ持ってきてっていう、最近の下らないテレビドラマの真似事みたいなことをするのは、明らかに今までとはやってることが違ってきてて、ネタに詰まってるんだろうとしか思えないんだけどなあ。
墨:でも話自体はどんどん煮詰まっていくんだから、なんですか、ネタを中心にして一話完結のような感じで描くのがやりにくくなってるんでしょうかね。
耽:キャラだけじゃなくて各話の構成まで全体のストーリーに押しつぶされているのか。でもね、そこまで明確にゴールをかっちり決めて描き始めたわけでも、今そう描いているわけでもないでしょう?
墨:まあねえ。前にコスカの後で何人かの人達とちょっと話したときも、別にゴールとか無くって良くって、屋敷の日常を延々と書き続けていけばそれでいいんじゃないかっていうような意見も結構あったんですけどねえ。
耽:それじゃあ『サザエさん』じゃないですか。
墨:それでいいんですよ。『エマさん』でいいんですよ。
耽:(笑)でも本当に「小麦粉」が増えてきたなあと。「八二そば」って言うの? 小麦粉八割だと・・・もうそばじゃないよね。(注7)
墨:立ち食いそば屋のそばくらいかねえ(笑)でもまあ、5巻だけ取り出して評価するのは、多少どうかなと思うので、また次の巻も読まないと評価はできない、最後まで読まないとこれ以降は評価が決めらんないかなという気がしますね。
耽:そうですね。まあ『エマ』5巻についてはこの辺で。
墨:この辺のところで。
(以下『小説 エマ1』評論に続く)

注1:Wiltshire イングランドの州名。ロンドンから真西に約100キロほどの地域で、ソールズベリやスウィンドンといった街を擁する。

注2:「読書妄想録」第1回の「○地図なき「英國」〜メルダースさん家はどこにある?」参照。

注3:「ジョーンズ」という名前は通例 Jones と綴るが、『エマ』作中及び森薫氏のサイト(http://pine.zero.ad.jp/~zad98677/works2.htm)でもこのように綴られている。何らかの由来があるのかどうかは不明。

注4:レイルウェイ・ライター(自称)種村直樹氏のこと。どんな人かはお手近の鉄道趣味者に聞いてください。種村季弘氏だったら「センセイ」なんて揶揄するような書き方はしません。

注5:毒舌系の少女漫画家。『×−ペケ−』(小学館)という、当時の少女漫画界を代表する4コマギャグ漫画の作家として知られ、コアなファンも多い(少女マンガで4コマの単行本を7冊も出しているのは稀)。他の代表作に『子供達をせめないで』(ソニーマガジンズ→幻冬舎)、『女類男族』『うまんが』(小学館)などがある。

注6:昨年大好評(?)放映のアニメ『MADLAX』の主人公・マドラックスの声優であった小林沙苗氏が、アニメ『エマ』にてエレノアの声を勤めるとの由。
『MADLAX』にはエリノアというメイドさんが登場していたので(「メイドルーム」第5回参照)、ややこしいことこの上ない。実は対談中、墨公委は「エレノア」を半分くらい「エリノア」と言い間違っている(笑)
ついでに、『GUNSLINGER GIRL』には「エレノラ」という女性キャラが・・・もう訳分からん。

注7:「墨耽キ譚」第5回参照。


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